エモ捨て場

言葉にされない気持ちの墓場

お姫様

「負けず嫌いだからさ、体育会系の職場だったときは飲み会で無理やり吐いてまで飲んでたよ」 ステーキをワインで流し込みながら彼はそう言った。 ベッドの上で彼は僕のことを王子様みたいだと言ってくれた。そんなはずはないのに。清潔そうにアイロンのかか…

To-morrow, and to-morrow, and to-morrow,

ティッシュペーパーを見ると赤い染みが広がっていた。久しぶりに見る血の鮮やかさに動揺した。ウケなんてしてないし、痛みは全くなかったので驚きながら水を流した。自分が老いていっているのを感じた。こうして一つ一つ死に近づいていくのだと思った。 僕よ…

ブリキの木こり

【命綱】「あんまり早く歩かないで」ホテル街を上る坂道で彼はそう言った。丸山町はこんな時期だからか思ったよりも人が少なかった。その日はとても寒くて、煌々と輝くネオンが吐いた白い息を照らした。「この前スキー行ったら転んじゃって、靭帯切っちゃっ…

甘え

写真で見るよりも老けて見えたけれど、白髪交じりのグレーの髪がセクシーだった。パーカーの上にノルディック柄の厚手のニットカーディガンを羽織っている。自動販売機でお茶を買っていた彼にはじめまして、と簡単に挨拶する。彼はどこか不機嫌そうな、不愛…

終着駅

「ひとは快楽のなかで、快楽のために生きて、幸福になることができるのか? 快楽主義の理想は実現可能なのか? その希望は存在するのか?すくなくとも、その希望のかすかな光は存在するのか?」(ミラン・クンデラ『緩やかさ』) ――――――――――――――――――――――――――――…

道具

窓の外は晴れていて爽やかな風で洗濯物がそよいでいた。何度か通う彼の部屋は程よく整理されていて落ち付いた。全ての家具をニトリや量販店で揃えた僕の家とは違う。高そうなソファやベットが並んでいる。テレビの脇にはロボットアニメのフィギュアが飾られ…

小骨

見知らぬ女性が何か言っている。宗教の勧誘だろうか。ベンチに座る僕は、イヤホンから流れる音楽で何を言っているか分からず、眉をひそめて睨んだ。「久しぶり!」コードを外すと明るい笑顔で彼女はそう言った。そうだ、この人は僕の母親だった。少し皺が深…

クリームブリュレ

僕がその人と会ったのは確か高校一年生のころだった。掲示板の募集でメールをくれたのだった。 彼の家に行く前に、カフェに入ることになった。「デザート頼んでいいよ。」出てきたのはクリームブリュレで、バーナーの猛火でカリカリに焦がされるプリンの表面…

0.11%

去年の夏から放蕩を繰り返していた。でも、そろそろ辞めにしたいと思う。 一度×でやってしまったことがあった。「薬やってるから大丈夫」「中で出していいよ」と彼は言った。タチの感染率は0.11%らしい。宝くじを当てるくらいの確率?回数の問題ではなく、か…

綺麗事

グレーのストライプスーツに身を包み、白い無地のシャツに合わせた青いネクタイが爽やかだった。生え揃った白い歯や、細めた目の横に浮かぶ笑い皺。きっと石鹸の香りがする彼に僕は触れてみたいと思った。写真の中で笑う彼の笑顔にはプラスチックでできたマ…

ラブレター

僕は君のことが好きだ。愛している。 I love you/我愛你/Je t'aime/Ich liebe dich/Ti amo/月が綺麗ですね。僕はふざけているのではない。君を愛するという気持ちはどんなに言葉を尽くしても表わし切れないのだ。それにしても「愛している」という言葉はなん…

お風呂

商店街の中を進むと彼のアパートが見つかった。戸を開けて出迎えてくれた彼は写真の印象とは少し違ったけれど、それは別にたいしたことではないと思った。彼の部屋を眺めると、本棚には少年漫画が並び、野球の応援グッズや部屋のあちこちにはキャラクターグ…

鏡の国

僕はビデオボックスが並ぶ通路に、寄り掛かり何かを待っていた。狭い通路をすれ違う一瞬だけ目があった。暗闇の中で彼の顔はよく見えなかった。どこかで見た知っている誰かに似ている気もした。彼がその個室に入るのを見て、僕は隣の部屋に入った。 小さな折…

眠り姫

「地図に従って来てください。×××××というマンションです。オートロックなので1405を押してください。」 「部屋は鍵を開けておきます。玄関すぐのところにバスタオルが置いてあります。そこで脱いでください。」 「その場所から左に入ると扉があります。開け…

バイオリン

そこまで辿りつくのに、なぜかとても時間がかかったように思えた。僕たちは回廊のような廊下を渡り、ランプが灯っている2階の一番奥の部屋に入った。 部屋にはショーケースがはめ込まれており、中にはおばあさんが好きそうなメルヘンチックな人形が何体も鎮…

唾液

僕はとある男性の部屋に来ていた。彼は僕よりも背が高い。僕は彼にくちづけするのに少し背伸びをした。僕は彼をベットに押し倒した。彼に覆いかぶさり「口を開けて」と言って唾液を流し込んだ。そのままキスをすると、舌を伝って流れる液体が、お互いを繋ぐ…

詩人

×××にいる男の人は鍛えている人が多い。でもその筋肉のつき方はアスリートのように均整のとれたものではなく、腹筋だけ浮き出ているけど腕は細いだとか、やせ型なのに足だけ太いだとか、どこか歪な身体だった。まるでガラパゴス諸島とか閉じられた自然のなか…

面接試験

その日、僕は半年に一度行われる昇級試験の面談を受けていた。僕はこの昇級試験にすでに二回も不合格になっていた。二回も経験した試験にも関わらず、答えを用意したはずの質問にも、話し出す度に言葉はどんどんバラバラになって、違う、僕が言いたいのはそ…

男性同性愛者のための正しい間違った性教育

ここは、いつも、ほんのりと甘い匂いがする。それは、そこかしこに置かれた安いローションと唾液の交じり合った香りだった。裸の男たちを見ると、興奮しながらも人間てなんて愚かなのだろうと思う。人間?いや、自分だけかもしれない。自分はなんて愚かなの…

暗闇

一週間抜いてない。つまり射精していない。なぜなら彼氏が仕事を辞めてずっと家に居るからだ。オナニーするための、一人の時間がないのだった。彼氏はその間、料理や洗濯などの家事をしながら、その他の時間は散歩をしたり銭湯に行ったり、あとはアマゾンプ…

労働と報酬

騒がしくネオンが光る大通りを一本裏に入った細い路地で、表札も何もないドアの前に僕は立っていた。「もしもし。予約した山村ですが、いま店の前にいます」「分かりました。じゃあ、インターホンを押してください。」「どうぞ」 ドアを開くとそこには急勾配…

蜃気楼

何度も思い返す。僕は自分のことを真っ当な人間だと勘違いして生きてしまっていたのだった。 「結婚おめでとうございます」僕は悲しかったけれど、笑顔でそう言った。綺麗な教会で大勢の人が集まり、新郎新婦のドレスとタキシードが白く輝いていた。幸せそう…

クレヨンしんちゃん

やることがないと人生ってなんて暇なんでしょうか。最近、暇すぎてクレヨンしんちゃんの映画27作品全部見てしまいました。みさえとかひろしとか、親として少しだらしないところはあるけれど、子どもを第一に考えて行動するっていうところが、真っ当な世界で…

数学B

高校の頃、数学のテストで0点を取ったことがある。 もはやそのテストの内容というのも、あまり覚えてないのだけれど、「数学B」という教科のベクトル…とか、そういう関連の問題だった気がする。 授業に興味がなく、ほとんど寝て過ごしていたので、そんな結果…

ハッピーウェディング

冷や汗が出る。 上司の結婚式、二次会に招かれたのだった。奥さんは何歳なんだろう。背が高くて綺麗な人。四十代半ばで、眉毛が濃くて、おじいちゃんみたいな顔の上司、この人よくこんな美人と結婚できたな。 何度も途中で帰ろうかと思った。来なければ良か…

ゲームオーバー

楽しいこともたくさんあったはずなのに、思い出すのは嫌なことばかりだな。あの、ぷよぷよってあるじゃないですか。なかなか消せない銀色の「お邪魔ぷよ」みたいに救いのない気持ちが重なって、もう「窒息」でゲームオーバーになりそう。人生がゲームなのだ…

クイズ

問題:人生はクイズで、見るもの全てがヒントだとしたら? 答え:XXXXX 自分の声やしゃべり方が嫌いだ。おかま独特の鼻にかかったような高い声や、なよなよした口調は聞いただけで吐きそうになる。声変わりしてから、自分の声はますます醜くなった。だからと…

初夢

今年の初夢は「妹が泣いている」という夢だった。何で泣いていたのか、どういった状況だったのか詳しくは覚えていない。でも、頭の奥に微かに罪悪感の残る目覚めだった。 妹は結婚して子どもがいる。 夫と子ども3人で暮らし、両親も孫の誕生を喜んでいた。孫…

あなたはあなたの関係者ですか?

「あなたはあなたの関係者ですか?」 スーパーで見たことあるおばさんとすれ違ったのだけれど、あれは誰だったのだろう。色々思い返すのだけど、結局思い出すことができなかった。ただの気のせいだったのだろか。夢の中の出来事だったのかもしれない。余生の…

世界の根拠のなさについて

世界の根拠のなさについて(2001) 高橋悠治 かれは 何についてでも語ることができる意味のあることをわたしは そんなことはしたくない とウンベルト・エーコについて ジル・ドゥルーズが言ったとかインド洋にいるアメリカの航空母艦の甲板から次々に飛び立…