エモ捨て場

言葉にされない気持ちの墓場

甘え

写真で見るよりも老けて見えたけれど、白髪交じりのグレーの髪がセクシーだった。
パーカーの上にノルディック柄の厚手のニットカーディガンを羽織っている。
自動販売機でお茶を買っていた彼にはじめまして、と簡単に挨拶する。彼はどこか不機嫌そうな、不愛想な表情だった。
「今日は寒いですね。」
「昨日と比べると日差しが弱いですよね。」
「そうですね」
「……」
会話が続かない。人通りのない街を沈黙と冷たい風が流れた。


「手洗いうがいだけしてもいいですか?」
蛇口から冷たい水が流れる。ハンドソープで念入りに手を洗う。うがいの音を聞かれるのは少し恥ずかしい。
彼はカーディガンをソファの上に掛けていた。パーカーの上から乳首をゆっくりと撫でる。
不愛想な表情が恥ずかしそうな、嬉しそうな顔に変わる。
彼の乳首は服の上からでもわかるくらい少し大きめで勃起するようにピンと立っていた。
布の上からじっくりと、じらす様に触る。
「服、ぬいじゃおっか。」
僕は彼をベットへ押し倒した。
薄手の肌着の上からさらに爪を立てて、脇腹から乳首へと肌をなぞる。
彼はそれまでと違った甘えた声を出した。くちびるとくちびるで触れると柔らかい。
分泌された唾液を彼の口の中へ落とす。ごくり。と喉が動く。彼の股間には触れずに、ゆっくり体中を撫でまわした。
口づけをすると一重なかの瞳がうるうると光っていて愛おしくなった。
「どこが気持ちいい?」「ぜんぶ、ぜんぶ、気持ちいいよぉ」
「だめぇ。おかしくなる。おかしくなっちゃう」「こんらぁのはじめてぇ」
さっきの仏頂面からは想像もできない甘えた口調と饒舌な喘ぎ声が可愛かった。
触れる度に彼は喘ぎ声を漏らして、何か特殊な楽器を弾いているような気持ちになった。
密着した肌が暖房を聞かせた室内で熱を持ち汗ばんでいた。
彼の欲望に応えらるのが僕は嬉しかった。


僕たちはベットに横たわりながらテレビを眺めていた。
「そういえばさ、鬼滅の刃って見てる?あれって実は鬼の名前がペストだとか結核だとか病を表してるんだってさ」
「結構タイムリーな物語だったんだね。主人公がさ、すごい良いやつなんでしょ?」彼が言った。
「そうそう、敵に対しても優しさとか慈しみを持って接するというか…。きっと、そういう時代だと思うんです。みんな誰かに優しくされたいんですよ例えばさ、アメリカの大統領選で今回勝ったのってバイデンさんだったじゃないですか。彼はカリスマ性はないけれど、人々に寄り添うことができる。共感できるんです。それは彼が若いころに交通事故で妻と子どもを亡くした体験やドモリによって幼い頃に虐められた体験がもとになっていると言われています。世界中で今、分断が起こっているじゃないですか。ネットに怒りを差別をまき散らす人たち、その人の心の底にあるものは、自分をみて欲しい、自分を分かって欲しいという気持ちなんだと思う。それを罰や説得で制しようとしてもどうしようもないですよ。きっと。そこには優しさが必要なんですよ。」
「俺にもさ、もっと優しくしてよ」彼は僕の胸に頭を埋め、ぎゅっと抱き着いた。
「優しく?もっと激しくじゃなくて?」耳元で囁いた。
コロナウイルスの蔓延は僕たちを確立的存在に変えたよね。確率的存在というのはさ、例えば大災害や戦争において、あるいはこういったパンデミックにおいて人間は死ぬかもしれないし、死なないかもしれない、その選択は全く無意味で確率的にのみ決まるという意味なんだけどさ。」
「もうさ、あんまり気にしても仕方ないからさ、できるだけのことはやって割り切ってる。人生には生きる意味も死ぬ意味もなくて、ただ目の前を通り過ぎるだけの現実を眺めるだけしかないのさ」彼はそんな風に答えた。