エモ捨て場

言葉にされない気持ちの墓場

To-morrow, and to-morrow, and to-morrow,

ティッシュペーパーを見ると赤い染みが広がっていた。
久しぶりに見る血の鮮やかさに動揺した。ウケなんてしてないし、痛みは全くなかったので驚きながら水を流した。
自分が老いていっているのを感じた。こうして一つ一つ死に近づいていくのだと思った。

 


僕よりも背が高く、締まった身体をしている。前髪を下ろした流行りの髪型だとなんとなく分かる。
良く見えないけれど、きっと整った顔をしている。でもきっとタイプの顔ではないと感じた。
暗闇の中でその男は僕の手を握った。興奮に身を任せて、そのまま迷路の中の一室に入る。
唇は柔らかく、舌が絡みあうと少し唾液の匂いがした。
彼の下腹部に手を伸ばす。脱毛しているのか、毛は一切なく肌が滑らかだった。
彼のモノにはリングが嵌められていて、固くなったそれは弓なりにしなっていた。
お互いの頭と足を反対の態勢にする。
しゃぶっている途中、香水を付けているのか彼の身体からは清潔な良い香りがした。
彼の身体はどこもセックスのために整えられているのだと思うと、口の中を出し入れするその物体が急に気持ち悪くなった。
石鹸を口の中に入れてしまったような異物感だった。「ごめん」と言って僕は逃げ出すように個室を出た。
シャワーを浴び、口の中を何度も濯いだ。速足で雑居ビルの階段を下りた。いつの間にか外では雨が降っていた。
もうここには来るのはやめようと決意した。それは以前にも思ったことだった。

 


明日、また明日、また明日と、時は
小きざみな足取りで一日一日を歩み、
ついには歴史の最後の一瞬にたどりつく、
昨日という日はすべておろかな人間が塵と化す
死への道を照らしてきた。消えろ、消えろ、
つかの間の燈火! 人生は歩き回る影法師、
あわれな役者だ、舞台の上でおおげさにみえをきっても
出場が終われば消えてしまう。白痴のしゃべる物語だ、
わめき立てる響きと怒りはすさまじいが、
意味はなに一つありはしない。

(シェイクスピアマクベス』)

 

 

自分を持て余す。
休日なのに、何もやることがない。やりたいことも、好きなこともない。お気に入りだった小説も、これを読んで何のためになるのかと考えてしまう。
憧れの映画もこれは僕の生きる世界とは遠いものだと感じてしまう。何も良いと思えない。
仕事に役立つ勉強をしようかと考える。いや、そうしたところで稼ぎが増えるわけでもない、と思って断念する。
そういえば、僕は昔勉強が好きだった。知識が自分をもっと遠い場所へ連れていってくれると信じていた。
何か熱中できるもので、僕の放蕩を終わりにしてしまいたい。ずっとそう思っている。
自分の以前の投稿を読み返して、何も変わってないなと思った。もう何も変われないのかな。

 

 

知り合いの人が梅毒になったって聞いてさ。ドMの人とセフレになったんだって。
「チンコじゃ気持ちよくなれないから拳を入れて」「身体中にマジックで奴隷って書いて」「もっと強く殴って」
とか過激な要求に応えたって話を笑いながらしてたよ。俺は引いてたけど。
で、その人から病気移されたらしくて、なかなかウイルスの量が減らなくて治るまでに1年もかかったんだって。
それから怖くてさ、俺も二回も検査にいったよ。

「キスはダメ」
僕はそう言っていた男のことを思い出した。彼は僕が出した精液を嬉しそうに見つめていた。
キスができない代わりに彼がしごく間、頬をくっつけたり、頭の匂いを嗅いだりした。頭皮の匂いとシャンプーの香りがした。

 

 

 


「ぜひぜひ!ガン掘りして奥にいっぱい種付けされたいです」
「よかったらしゃぶりあいとかしませんか?○○に場所ありです」
「見せあいとか好きですか?」

届いたメッセージは欲望に満ちて、盛りのついた猿が上げる鳴き声とそう変わらない。
恥もリスクも考えずに狂える人が僕はどこか羨ましくも思える。病気を省みず自分の欲望に忠実になれるなんてすごい。
それって死を恐れていないということにも思える。自分のことよりも大切なものがあるってすごい。
僕は自分の足で死に近づきたいとは思えなかった。
僕はまだ、まだ少し自分のことが大切で、退屈だけど幸せだと思える日々をどうにか誤魔化してもう少し続けていこうと思った。