エモ捨て場

言葉にされない気持ちの墓場

2020-01-01から1年間の記事一覧

終着駅

「ひとは快楽のなかで、快楽のために生きて、幸福になることができるのか? 快楽主義の理想は実現可能なのか? その希望は存在するのか?すくなくとも、その希望のかすかな光は存在するのか?」(ミラン・クンデラ『緩やかさ』) ――――――――――――――――――――――――――――…

道具

窓の外は晴れていて爽やかな風で洗濯物がそよいでいた。何度か通う彼の部屋は程よく整理されていて落ち付いた。全ての家具をニトリや量販店で揃えた僕の家とは違う。高そうなソファやベットが並んでいる。テレビの脇にはロボットアニメのフィギュアが飾られ…

小骨

見知らぬ女性が何か言っている。宗教の勧誘だろうか。ベンチに座る僕は、イヤホンから流れる音楽で何を言っているか分からず、眉をひそめて睨んだ。「久しぶり!」コードを外すと明るい笑顔で彼女はそう言った。そうだ、この人は僕の母親だった。少し皺が深…

クリームブリュレ

僕がその人と会ったのは確か高校一年生のころだった。掲示板の募集でメールをくれたのだった。 彼の家に行く前に、カフェに入ることになった。「デザート頼んでいいよ。」出てきたのはクリームブリュレで、バーナーの猛火でカリカリに焦がされるプリンの表面…

0.11%

去年の夏から放蕩を繰り返していた。でも、そろそろ辞めにしたいと思う。 一度×でやってしまったことがあった。「薬やってるから大丈夫」「中で出していいよ」と彼は言った。タチの感染率は0.11%らしい。宝くじを当てるくらいの確率?回数の問題ではなく、か…

綺麗事

グレーのストライプスーツに身を包み、白い無地のシャツに合わせた青いネクタイが爽やかだった。生え揃った白い歯や、細めた目の横に浮かぶ笑い皺。きっと石鹸の香りがする彼に僕は触れてみたいと思った。写真の中で笑う彼の笑顔にはプラスチックでできたマ…

ラブレター

僕は君のことが好きだ。愛している。 I love you/我愛你/Je t'aime/Ich liebe dich/Ti amo/月が綺麗ですね。僕はふざけているのではない。君を愛するという気持ちはどんなに言葉を尽くしても表わし切れないのだ。それにしても「愛している」という言葉はなん…

お風呂

商店街の中を進むと彼のアパートが見つかった。戸を開けて出迎えてくれた彼は写真の印象とは少し違ったけれど、それは別にたいしたことではないと思った。彼の部屋を眺めると、本棚には少年漫画が並び、野球の応援グッズや部屋のあちこちにはキャラクターグ…

鏡の国

僕はビデオボックスが並ぶ通路に、寄り掛かり何かを待っていた。狭い通路をすれ違う一瞬だけ目があった。暗闇の中で彼の顔はよく見えなかった。どこかで見た知っている誰かに似ている気もした。彼がその個室に入るのを見て、僕は隣の部屋に入った。 小さな折…

眠り姫

「地図に従って来てください。×××××というマンションです。オートロックなので1405を押してください。」 「部屋は鍵を開けておきます。玄関すぐのところにバスタオルが置いてあります。そこで脱いでください。」 「その場所から左に入ると扉があります。開け…

バイオリン

そこまで辿りつくのに、なぜかとても時間がかかったように思えた。僕たちは回廊のような廊下を渡り、ランプが灯っている2階の一番奥の部屋に入った。 部屋にはショーケースがはめ込まれており、中にはおばあさんが好きそうなメルヘンチックな人形が何体も鎮…

唾液

僕はとある男性の部屋に来ていた。彼は僕よりも背が高い。僕は彼にくちづけするのに少し背伸びをした。僕は彼をベットに押し倒した。彼に覆いかぶさり「口を開けて」と言って唾液を流し込んだ。そのままキスをすると、舌を伝って流れる液体が、お互いを繋ぐ…

詩人

×××にいる男の人は鍛えている人が多い。でもその筋肉のつき方はアスリートのように均整のとれたものではなく、腹筋だけ浮き出ているけど腕は細いだとか、やせ型なのに足だけ太いだとか、どこか歪な身体だった。まるでガラパゴス諸島とか閉じられた自然のなか…