エモ捨て場

言葉にされない気持ちの墓場

男性同性愛者のための正しい間違った性教育

ここは、いつも、ほんのりと甘い匂いがする。
それは、そこかしこに置かれた安いローションと唾液の交じり合った香りだった。
裸の男たちを見ると、興奮しながらも人間てなんて愚かなのだろうと思う。
人間?いや、自分だけかもしれない。自分はなんて愚かなのだろう。
同時にこんな場所があるのは、人は何にも縛られず、こんな行為をすることにも自由が保証されてるって、イかれてて最高だ。
セックスするためだけに集まるこの場所では、男同士で●●に●●を挿入し、●●を交換し、●●を飲み込んで…
裸の男たちにあるのはただお互いを貪り合う欲望だけで、様々なラベル、レッテルから解放された自分が心地良いとも思った。
ここでは誰もが平等に卑しく愚かだ。

 

 


彼はこういう場所には珍しく饒舌な人だった。
僕の年齢や住んでいる場所、彼氏がいるかとか、臆面もなく、ひとしきり聞いてきた。
そんなにタイプというわけではなかったけれど、何度かアプローチがあったので、僕は手を引かれて個室に入ったのだった。
誘ってきた割には「セーフしかしない」と言った彼とはキスもフェラチオもしなかった。
そういった行為をしない代わりに抱きしめ合ったり、頬をくっ付け合ったりした。
僕が初めてここに来たと言うと、どんな時間に人が多いだとか、ローションはどの個室のどこにあるのだとかを彼は教えてくれた。
「ちんちん触るのうまいね」
そう言ったけれど、結局彼は自分の手で果てた。

 

 


初めてビデオボックスに入った。
固定されたテレビはアダルトビデオのCMを延々と流している。
薄暗い通路を裸の男たちが、その個室の前で腕組みをしながら、目を伏せながら立ち尽くしていた。
それはどこか悪い夢のようだった。みんな何を待っているのだろう。
誰でも良いのではないのだろうか。誰でも良いなら僕を選んでくれればいいのに。
僕は個室に入って鍵を閉めた。
部屋を見渡した。部屋は完全な密室ではなく、入って前方の壁に少し隙間があり、そこに鏡が張られている。
鏡を通して隣の部屋の様子が僅かだが覗けれるのだ。両隣の壁には丸い穴が空いており、メモとペンも用意されていた。
この薄暗い小箱は棺桶のようだった。コミュニケーションの取り方は監獄のようだった。
右隣の部屋からジュぼじゅぼ、だか、ちゅぱちゅばだとか淫靡な音が響いてくるのを聞いて、僕は鏡を覗き込んだ。
顔は見えないけれど、彼らが交わるのが見えた。
左隣の部屋からは扉が閉まる音がした。やがて、その左隣の壁の丸い穴から勃起したチンコが突き出されてきた。
突然の出来事に驚いた。なんだか現実とは思えないおかしみを感じて笑い出しそうになった。
つやつやした亀頭を唾をつけてゆっくり撫でると、低く唸る声がした。
僕はそれを咥えこみ、壁に向かってストロークさせた。
しばらくすると、「ガタッ」という音がして、左隣の個室の扉が一部折れ曲がり、入れるような隙間ができた。
はぁ、こういう仕組みなのかと感心しながら隣の部屋に入るとそこには30代だろうか、短髪の男がいた。
無駄のなくしまった身体は綺麗だった。僕は彼の乳首を吸ったり、甘く噛んだりしながら彼のチンコを扱いた。
あーとかうーとか喘ぎ声を上げて、押し殺した声で「イかせて」と彼は言った。
しごく手のスピードを上げると勢いよく飛び出した精液は壁にかかった。
彼は殺人犯が現場に残してしまった血痕を消し去るみたいな素早さでティッシュを取り出して、その液体を拭き取り「ありがとう」と言ってその場から立ち去った。

 


スーツの彼と個室に入ると、僕たちはキスをした。
彼は僕よりも背が高かった。半そでのストライプシャツを着ていた。
キスをしながら、彼のYシャツのボタンを外す。
Yシャツを着たまま、彼は肌着を首の後ろに下げた。
彼の身体からはホワイトムスクのような甘く爽やかな香りがした。
スラックスのズボンをお互い膝まで下ろし、僕たちは扱きあった。
割と新しいスラックスが精液で白く汚れないか心配だったけど、大丈夫だった。
「若いよね?学生?」「いえ、全然、そんなに若くないです…。」
僕たちは精液を拭き取りながら、少しだけ会話した。
部屋から出る前に、強く抱きしめ合って、キスをした。
「チャック開いてるよ」
彼は少し笑いながら、僕のスラックスのジッパーを引き上げ、外に出た。
それは僕が好きな優しさに少し似ていた。
いいなぁ。その優しさをもっとくれないかな?

 

 


少しぽっちゃりした体形の彼は、どこを触っても柔らかく抱き合うと気持ちが良かった。
彼はしゃがみ込んで僕のチンコにしゃぶりついた。僕は僕のものを咥えこんだ彼の頭を掴んで腰を振った。
こういうのが好きなんだろ?僕は彼にしゃぶらせながら、足で彼のチンコをしごいた。
彼は「ヤバいっす」とか「気持ちいいっす」とか○○っスという言葉をよく使った。
それはきっと男らしさのアピールのためなのだと思う。
そんな言葉遣いをする彼を僕はなんだかちょっと面白いとも思ったし、可愛いなとも思った。
「可愛いね」と僕が言うと彼は「何言ってんの」と笑いながら顔を背けた。
頬っぺたを抓る。なんだか恋人同士のようだった。
「どSだね」
僕は彼のいろんなところを責めて、快感に顔を歪める彼を愛おしく思った。
彼は僕よりも4歳ほど年上だった。
「出張があって久しぶりにこの辺りに来て。半年ぶりくらいかな」
「年上だからホントなら俺が責めないとね」
「いいんだよ。可愛かったよ」
僕は抱き合ったまま彼の背中を優しく叩いた。
「年上だから譲るよ、先にシャワー浴びてきなよ。」彼ははにかみながらそう言った。