エモ捨て場

言葉にされない気持ちの墓場

神聖法系

「遅れてしまってすみません。入場いまから大丈夫ですか?」
僕は眉間に皺を寄せながらそう言った。
「大丈夫ですよ。次から気をつけてくださいね。」
困ったような笑顔でスタッフはそう言ってゲートを開けてくれた。
「大人だね。俺はそんな風に言えないなぁ。何も言わずに素通りしちゃう。見習わなくちゃ。」
入場した美術館の通路はひんやりしていた。彼は笑いながらそんな風に言った。

「全然大人になれないんだよね。イラっとしたらすぐに怒っちゃうし、嬉しいとすぐにはしゃいじゃう」
そう言う彼が羨ましく、素直さが滲む笑顔が可愛いと思った。笑いたいときに笑って、怒りたいときに怒って、そんな風に心を剥きだしにしていたら怖くないだろうか。人に傷つけられるのが怖い。ずっと昔に自分の心を守るためにその扉を閉ざした。やがて扉の鍵をなくし、誰にも心を開けぬまま自分が何を感じているのか分からなくなった。

有名な作家が描いたドローイング、油彩、エッチング。何百万円もする価値ある絵画の数々。彫刻家が意志を込めた立像。許しを乞うように跪いた女。

「どの絵が一番好きだった?」

その質問に僕は言い淀んだ。美術館で見た古典芸術はどれも素晴らしいとは思えなかった。
全てが打算。この人にはこう言ったら喜ぶだろうな。困った顔をすれば許してくれるかな。優しくすれば好かれるだろうな。さっきだって申し訳なさそうにしてれば相手の印象が良くなるからそうしただけ。別に何も悪いだなんて思ってない。そんなことばかり。自分の感情さえ自分のものではない。
「…ゴッホかな。厚塗りされた油彩の立体感とゴッホ独特の黄色が好きでした。」彼が鑑賞する姿を思い出しながらまるでクイズに回答するようにゆっくりそう答えた。

「良かった!俺もそれが一番好きだった!」

嬉しそうに話す彼を見て僕は微笑んだ。

美術館を出るとホテルに向かった。

首筋に口づけし、脇腹を指先でなぞり、耳に吐息を吹きかけ、足を持ち上げその奥にある襞の集中する一点を舐めた。彼は恥ずかしがりながら、こんなにせめられたのは初めてだと言った。
彼は長年付き合った恋人と数日前に別れたのだという。繰り返す恋人の不貞に彼は耐えられなくなり、一緒に酒を飲んだ帰り道、取っ組み合いになったそうだ。
高価なベットやともに買った家電はどうしようと笑いながらも弱弱しい声でそう言った。
セフレを作る人には2パターンいて、性欲だけを満たそうとする人と寂しさを埋めようとする人がいる。
夏の終わりの涼しい空気が胸に空いた穴に隙間風になって吹きすさんだ。誰かと肉体関係を結ぶ度、その人に愛する人がいることを知って、僕は同じように愛されないということを実感して寂しくなる。Aの寂しさをBで埋めて、Bの寂しさをCで埋めて、Cの寂しさでDので埋めて…ということを続けているので終わりがない。いや僕が感じているのは誰がどうこうとか、幸せだとか愛し合って満たされているだとかそういうことじゃなくて、もっと人間は生来孤独であるとかそう言ったたぐいの寂しさなのかもしれない。人のぬくもりなんかじゃどうやっても癒せないものなのかもしれない。
誰かに好かれたい。どうでもいい仕事をして、どうでもいい食べ物を食べて、勉強して知識を得ても何の道も開けない。そんな自分に愛される価値はない。立派な人に好かれても自分の価値が上がるわけじゃない。誰かを求めてしまうのは、本当は恋愛がしたいわけじゃなくて、人生で道に迷ってとき新しい自分の可能性を求めて外の世界に出ていこうとしているだけ。とある本で読んだ。本来は僕の寂しさを埋めるものは友達なのかもしれないし、仕事なのか趣味なのか、僕は知らない。自分がどうすれば幸福なのか、満たされるのかも知らない。
でも僕はもうこうしてつまらない自分でいることがずっとずっと嫌なのだった。ノンケの男はセックスする相手と一緒にいる相手を分けている人が多いのだという。同性愛者同士はどうなのだろう。僕はきっと選ばれない気がした。本当にしなければいけないのことは、分かっていた。自分で自分を好きになること、僕自身が僕自身を選ぶことだった。でも今さらどうすればいい?
僕の膝枕に彼は頭を埋めた。一流大学出身、寝ぐせが可愛いだとか、負けず嫌いだとか、昔はボロいアパートに住んでいたとか、一緒に海外旅行に出かけただとか、彼から聞いた恋人のエピソードの数々を頭に浮かべながら、短くて固い髪を撫でた。

 

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一度会った人。盛り上がらなかった人。

若い子含めて4人で泊まる。一緒にお風呂に入る。エロいことしたかったけどしなかった。最後その人とイチャイチャ。服を着たままお風呂場でやった。コートをシャワーでビショビショにされて、クリーニングに出してきて、帰ってきたらまた続きをやろうと話す。自転車でクリーニング屋まで向かうがなかなか着かない。見つからない。海が近くにあった。川がゆく手を阻んだ。その川は渡れそうだったけど、また濡れるのが嫌で辞めた。犬の散歩をしている女の人がずぶ濡れになりながら出て来た。

やっとクリーニング屋を見つけると、そこは八百屋と一体になっており、なんとか外国人スタッフに今日仕上りしてもらう。帰り道が分からず、住所を聞くラインをした。

 


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見つめ合いながらやった。はっきりとした顔立ち。背が高くがっちりしてた。180cmくらい。たちが悪い。あまりデカくない。上目遣いでフェラすると困ったように苦悶の表情を浮かべた。

 


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ビルの上にある美大予備校。床に段ボールを敷いていつも誰かが見ているのも気にせず、想像だけでオナニしてるというおじさん。同じようにしたら無料で入学させてくれるらしい。僕は見事にやり遂げて、出した精子には血が混ざっていた。

 


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痩せ型で薄らと腹筋の浮かぶ綺麗な体。ムラムラしてたんですか?と彼は耳元で囁いた。ズボンを脱ぐとユニクロのシームレスボクサー。硬い突起の先がねっとりと濡れている。パンツの上からその液体を舐める。フェラ苦手なんだと言いながら僕の頭を制した。

パンツを脱がすと皮が被って先端だけが少しだけ空いている。そこに溢れてる我慢汁の泉。亀頭が敏感なようで皮を剥かずにしごいた。向かい合ってお互いのオナニーを眺めて合うようにしごいた。神聖な真性な方なのかと思ったけど、イクときだけは中身のものを剥き出しにして、それは旬の葡萄のように実が詰まって張り詰めた赤くてツヤツヤ果実だった。