エモ捨て場

言葉にされない気持ちの墓場

僕が夢みたいに過ごしてた時間も君は退屈してたんだね

 

 

出会い系アプリの紹介文を変えた。
エロいことをできる人を募集する文章を付け加えた。今までは何となく恥ずかしいとか思ってたけど、もういいや、別に友達もいないし。
寂しさは徐々に身体を侵食し穴を空けていった。その穴を誰かと淫らな事をすることによって埋めたかった。

「僕とも添い寝はしてくれるんですか?笑」
「Hello!Chubby bottom from HongKong here!Thank you for matching」
「いきなり笑」
「固定のセフレが欲しいんですか?一夜も?」
「そうなんですね!やれるかは会ってからって感じですけど、ご飯とかお茶どうですか?」
「何を募集しているんですか?暇つぶしですか?」


はい、暇つぶしです。人生なんて壮大な暇つぶしじゃないですか?あなたは違うんですか???
それでも何もないよりはいいや。何もないよりは、たとえ寂しさだけでもあってくれたほうがいい。じゃないと退屈に殺されてしまうから。
こうしてメッセージのやりとりをしていると、僕は僕のことを好きになってくれる人を全て消費し尽してしまうのではないかと思う。
違う出会い方をすれば、もっとお互いを大切にできたかもしれないのに。僕に好意を持ってくれる人は近いうちにいなくなってしまうのかもしれない。

 

 

今日もあの人からの返信はなかった。

 

 

彼氏とセックスした。
何回も重ねた肌、何回も眺めた裸。触れ合うと気持ちよいけど、どこか物足りなさもあった。
僕だけがイッた。最近はどちらか片方だけがイって満足することが多い。
「入れてもいい?」「今日はたぶん入らない…」

幸福と孤独は相反するものではない。
そもそも、どんな感情も同時に存在しうる。幸せの絶頂にいても消えない憂鬱はあるのだ。
愛し合う満足感の中にも、湖に沈む澱のように、ほら悲しみが。

 

 

 

 

その人は○○町駅の真裏にある高層階のマンションに住んでいた。
エントランスとエレベーター前でインターホンを鳴らす。
ドアを開けるとツルツルしたジャージ素材のラフな格好で彼が出迎えてくれた。
一人暮らしなのに2LDKのマンションに住む彼は、最近はインテリアの収集に凝っているのだと言い「こんなに間接照明いらないんだけどね」と自嘲した。
優しく唇に触れて、すべすべの肌を指で撫でた。シャツを捲し上げると、彼には臍がないのに気が付いた。
あるはずの窪みはパテで埋められた壁の穴のように塞がれていた。それは痕が残ってしまった古傷のようでもあった。
また彼は全身脱毛をしているらしく、体毛が一切なかった。彼の身体とこねくり回しているうちに僕は人形と行為しているような気持ちになった。
人生が小説だとしたら、それは何かの寓意ではないかと思われた。
別に高層マンションなんて住みたいとは思わない。しかし僕にもこんな人生もありえただろうかと頭に過るとエロい気持ちが散漫になった。

 

 

会う約束をした人が、遅れると言ったまま1時間経っても姿を現さなかった。
僕は持て余した性欲を解消すべく暗闇へと向かった。
日曜日の夕方、狭い通路にすれ違うのもやっとなくらい多くの人が、それぞれ誰かが誰かを待ち惚けしていた。
目が合った一人と僕は個室に入った。その人は僕のどストライクでこんなにタイプな人とエッチなことができるのは初めてかもしれないと思った。
凛々しい眉と、一重だけどはっきりとした男らしい顔立ち。少し色黒のがっちりとした身体。手首には数珠のブレスレットが嵌められていた。
柔らかい舌が舌と触れると、脳みそが蕩けそうになるほど気持ちが良かった。
僕は彼の腕を上げ、樹液に群がる昆虫のように脇の下をぺろぺろと舐めた。汗の匂いがほんのりと香る美味しい塩味だった。
彼は何度もイキそうになる僕のモノをギリギリのところで寸止めした。
「一緒にいくんでしょ?」そういってお互いの固くなったところを二本まとめて扱き合わせた。
「最高でした。」行為の後にそう言うと「ありがとうございます」と彼は少し笑った。
僕にとって彼はすごく好みだけど、彼にとっては妥協した相手だったのかもしれない。
よくあることだ。好きな人が好きになってくれること自体が奇跡だ。好きな人が愛してくれない、それは自明すぎるこの世の真理の一つだ。あんなに好きだと感じたその人の顔は、もうはっきりとは思い出せなかった。

 

 

 

 


あの人は今頃恋人と過ごしているのだろうか。前日には恋人とセックスして一緒に眠り、起きたらいちゃいちゃしながらコーヒーでも飲むのだろう。
これからお互いがお互いを大切に思いやって、恐らく共通の趣味である登山にでも出掛けながら朗らかに生活していくのだろう。
そう、誰だって誰かの一番になりたいもの。僕は彼のことを二番目にしかできないのに恋心を抱くなんて間違っているのだ。
いや、好きという気持ちがあれば、ただそれでいいじゃないか。雲が流れるように雨が降るように、ただ好きと言う気持ちがそこに存在して、いつか消えていくだけで、それでいいのかもしれない。
消えるまでの間、じたばたとのたうち回り、堂々巡りを繰り返し、自分の愚かさをまた知ればいい。