エモ捨て場

言葉にされない気持ちの墓場

陰部摩擦罪

「てか今日軽くエロいことしません?」

「はやく攻められたい!」

「まじすか。部屋散らかってますけどいいすか?」

 

一年ぶりに帰省した実家から帰る電車の中そんなメッセージに返信をしていた。都内に借りているアパートからは1時間ほど離れた場所に彼は住んでいた。コンビニで待ち合わせる。Tシャツにジャケット、足元は素足にサンダルを履いた男が現れた。家が近いのだろうが、ちぐはぐな風貌だった。

 

「来てくれてありがとう。」

男に連れられてマンションの門をくぐる。玄関の扉を開くと床に置かれた衣類や机の上に山積みになった本が目に入った。確かに散らかっていた。こうした粗雑さに男らしさを感じる。安そうな細いフレームのベットには薄いマットレスミッキーマウスの描かれたブランケットが掛けられている。

 

「座っていいよ。」

そのベットに腰掛けると男はぴったりとくっつくように隣に座った。

手を重ね、絡み合わせ、見つめ合った。彼は女の子も好きで最近彼女と別れたのだと言う。

「朝抜いちゃったから。勃ちが悪くてごめんね。」

「男に攻められると興奮する。言葉責めしてよ」

 

行為の後、ベットに横たわりながら本棚を眺めた。リルケ詩集、ドフトエフスキーの数々の著作、米原万里、ロシア語のテキストがみっちりと詰まっていた。

 

「本が好きなんですね。」

「そう。大学で散々勉強してたんだけどね。馬鹿だから結局何も分からなかった」

彼は宙を見つめながらそう言った。

 

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「mrmr」

自分の中に巣食う性欲を飼いならせなかった。×××に行こう。そう思って新宿へ向かい、そこに向かう途中、今までやりとりした会ったことのない男たちへ片っ端から「イイね」していった。ちょうど入口に到着したあたりですぐに会えそうな男が見つかった。中央線沿いに住んでいるというので、駅まで折り返して電車に乗った。

 

待ち合わせ場所に着くと、アウトドアブランドの黒いコートに濃紺のジーパンを履いた彼がガードレールにもたれ掛かっていた。小脇には2リットルのペットボトルの麦茶を抱えている。180cmほどだろうか、長身でコートを着ていても分かるほど痩せている彼は細長いシルエットがマッチ棒を連想させた。写真で見るよりも好みだった。

 

狭い部屋は小綺麗に片づけられており、本棚と自転車とベット、それ以外にはほとんど何もなかった。

 

「手だけ洗ってもいいですか?」

そう言って借りた洗面台はガラス製で、やはりそこも曇りひとつなく磨かれているように見えた。

 

「狭いんですけど、適当に座ってください」

さっき買った麦茶をガラスが二重になったデザインのグラスに注ぎながら彼は言った。

 

ベットに隣り合わせに座ると彼の顔を覗き込んだ。色が白く、眉が濃い。柴犬みたいな顔が可愛かった。僕は彼の体中を撫であげ、時には爪を立て、唾液で濡らし、じっくりと舐めると身を捩じらせて悦んだ。僕は彼の顔が好きだと思った。彼の黒目を見つめるとそれだけでイキそうになった。恋するような感覚だった。

 

「入れて欲しい…」

彼はそう言った、しかし僕は彼に入れることができなかった。あんなに欲望が身体中を支配していたのに、役に立たなかった。彼の欲望を果たすことができず、扱き合ってイッた。

 

カーテンはベージュの薄い布製で、柔らかい日差しが布越しに僕たちを照らした。

少し開けた窓からは電車の音が聞こえてきた。

雑誌に載った生活のように彼の部屋はどこも整えられていて、シンプルで丁寧さを感じた。

 

「どんな人がタイプですか?」僕は尋ねた。

「頭良い人かな。あんまり場違いなこと言わない人っていうか。口が悪い人は好きですけど、言っちゃいけないことは分かってる人みたいな。」

彼は静かな話し方でそう言った。

 

「また会ってもらえますか?」

彼は俯きながら、「いいですよ」と答えた。

 

セックスに失敗し、のうのうと好きなタイプを聴き、それなのにまた会いたいだなんて、場違いなことばかり言う僕が彼に好かれることはないのだろうと思った。

 

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×××で会った人は見つめ合うのが好きだった。

しかし、中央線沿いで会った彼のように、イキそうなくらいな気持ちよさはなかった。

その違いはなんなのだろう。

 

男はイクときはコックリングを外した。

壁にもたれかかった兜合わせの体制が悪かったのか尾骶骨が痛くなった。

 

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口に入れたタブレットをバリバリと噛む音が聞こえた。

キスをするとグレープ味のタブレットの奥にほんのりとタバコの香りがした。

 

「胸舐めて」

感じそうな乳首だった。乳輪の周りをぺろぺろと舌で舐めまわした。どうやら右乳首のほうが感度がいいらしいということが分かった。吸うと柔らかかった。

 

夜遅い時間にここに来るのは初めてだった。夜にしか出ないポケモンに出会ったようなワクワク感があった。更衣室でみたときから気になっていた。整えられた髭がセクシーだ。僕とやってくれるのか分からないくらいモテそうだと思った。

 

彼のモノは長細い巨根だった。彼はカウチと僕の尻の間をローションで濡らし素股した。そうしながら強く抱きしめ合った。「好き」と言ってみたりした。

 

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彼は高級ブランドが好きなのだと言う。肩から掛けるバックは誰もが分かる高級品だ。

服を脱がしていく。柔らかい生地のシャツは××××、ベルトは××・××××、靴は××××××、と彼から一つ一つ記号を剥がしていく。

 

彼は身体中が性感帯で横腹を撫でたり、耳に吐息を吹きかけるだけで甘く喘いだ。

僕は彼とはあらゆる体位で入れたりだしたりを激しく繰り返した。

 

敷いたタオルにはピンクの液体が付いていた。

ごめんね、と思いながら一緒にホテルのジャグジーに入った。

 

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恋人と挿入行為をした。何年も営みがあったが、中で出したのは初めてだったのかもしれない。汚れ切った僕は彼のことが心配になったが、定期的な検査の結果を信頼することにした。

 

僕と彼は抱き合って眠った。そうすると幸せな感じがしたが、それは人と人とが抱き合うと分泌されるセロトニンだとかオキシトシンだとかの効果に過ぎないのかもしれないと微睡の中で思った。

 

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「さきっちょだけだけだから、入れさせて?」

初めて言われたそのワードが僕は嬉しくもあり、恥ずかしくも、可笑しくもあった。

「あー入れたらすぐにいっちゃうなぁ」

中指だけを入れられたが、なんだか気持ちよく感じた。もし今度会うことがあったら入れられたいとも思った。

 

「楽しかった。ありがとう。」

くちづけをして別れた。