エモ捨て場

言葉にされない気持ちの墓場

数学B


高校の頃、数学のテストで0点を取ったことがある。

もはやそのテストの内容というのも、あまり覚えてないのだけれど、「数学B」という教科のベクトル…とか、そういう関連の問題だった気がする。


授業に興味がなく、ほとんど寝て過ごしていたので、そんな結果になった。落第したらどうしようとか少し考えたりもしたけれど、案外平気だった。
思えば、僕は興味がないものに対して全然努力できないのは昔から変わってないのかもしれないなと思った。大人になると、疲れやすいし毎日眠たくてだるいと思ってるけれど、それも高校の頃からずっとそうなのかもしれない。
僕は、いま働いている職場でほとんど全てのものに興味を失いつつあるので、毎日0点を取っているのと同じ状態だ。

僕は、そんなつもりは微塵もなかったけれど、今思えば結構反抗的な生徒だったのだろう。
先生、ごめんなさい。でも僕は数学が嫌いです。

先生という職業の人とセックスしてみたくて、掲示板だったかな?何がきっかけか忘れたけど、塾の先生を職業にしている人と会うことになった。
そのころの僕はビンゴゲームの升を埋めるように、様々な職業の人間と性的体験を試みていた。
何か格闘技をやってたと言っていた気がする。ガタイは良くて顔は写真通りだったけれど、チックというのか、自分の手首のあたりに息を吹きかける独特の動作を頻繁にしていて、一緒に居て少し恥ずかしかった。
女性客だらけのスープストックでくちゃくちゃと音を立ててする食事も、気持ち悪かったけど、なんか性的でちょっと興奮した。やっぱり誤魔化して帰ろうかなとも思ったけれど、ご飯も奢ってもらって悪い気もしたし、相手が誘ってくれたので、その後ラブホテルに行くことになった。
この日僕は初めてラブホテルに入った。食事の仕方は汚かったけれど、モンダミン?みたいな口の消毒はちゃんとしていてちょっと可笑しかった。
部活に入っていなかった僕は、学校の先生とはあまり関わる機会がなくて、成績もよくないし、何の取り柄もない僕はきっと先生的な存在から認めてもらいたかったのだと思う。
全体がピンクで薄暗い空間で、プレイは意外と普通だった。フリーター、弁護士、自衛隊員、保険外交員、看護師、塾講師…先生、このゲームの景品はなんですか?

 

大学生の頃は、塾のアルバイトをしていた。二年くらい経って興味がないということに、大分遅くなってから気づいて辞めた。生徒のこととか、別に受験に成功しようが失敗しようが、どうでも良かった。
一度モチベーションが落ちると人間関係もどうでも良くなって、同僚との会話も全ての返事を「そうですね」と答えるようなおざなり会話になってしまった。
働いているスタッフはみんないい大学に通っていて、勉強はできる人たちだった。善良だけれど、将来公務員になりたいとか、とくかく安定した職業につきたいとか、そんなことばかり言うつまらない人達だった。
ある先輩は、銀行から内定をもらっていて、自分は趣味がないので仕事に役に立ちそうなゴルフをこれから始めるのだと言っていた。
この人達には、何も好きなものなんてなくて、利害関係と将来への保険で日々生きているのだと思った。そして同じ職場で働く自分にもそういった打算的な真面目さがあることが恐ろしくなった。キモいと思った。
カラオケに行ったり、ファミレスでだらだらして、恋愛の話とかよくしていた気がする。とてもくらだなかった。意味のない話ばかり、悩み相談しているようで、何も前に進んでいなかったし、こういうのが普通の人は楽しいのだろうか。
僕は、そんなことには興味がなかった。僕がそのとき話したかったのは、人生に大きく口を開けて待ち構える救いのない孤独とか、昨日見た夢の話とか、そういったことだったけれど、それも彼らの雑談と同じく等価に意味のないことだった。

 

祖母は呆けて死ぬ前に「学校に行きたい」と言っていた。自分が誰かもほとんど思い出せなくなりながらも、若い学生生活のことを覚えているなんて、惨めで嫌な気持ちになった。僕は呆ける前に死のうと決めた。

 

あの、先生、生きることには意味も目標もゴールもハッピーエンドもゲームオーバーもなく、それは自分で作らなければいけないってことを、それを教えて欲しかった。