エモ捨て場

言葉にされない気持ちの墓場

綺麗事

グレーのストライプスーツに身を包み、白い無地のシャツに合わせた青いネクタイが爽やかだった。
生え揃った白い歯や、細めた目の横に浮かぶ笑い皺。きっと石鹸の香りがする彼に僕は触れてみたいと思った。
写真の中で笑う彼の笑顔にはプラスチックでできたマネキンのような光沢と清潔さがあった。

僕は出会い系アプリを通じて彼と知り合い、すぐにラインのアカウントを教えてくれた。
僕たちは居酒屋で少しお酒を飲んでから、ホテルに向かった。

部屋に入ると抱き合い、唇を重ねた。彼の唇は薄いけれど柔らかかった。
「先にシャワー浴びてきていいよ」
そう言われてたけれど、僕は彼の流されていない汗や匂いを感じたいと思った。
「その前に…」僕は彼がきっちりと結んだネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外していった。
彼はジャケットを脱ぐとそれを二つ折りにしてテーブルの上に置いた。
薄い肌着の上から乳首を撫でる。僕は彼の脇に顔を埋めた。


 「私はお客様に誠実であるために自分が同性愛者だということを伝えています。同性愛者が世の中にいるということを身近に感じてもらいたいんです。」


僕はインターネットで読んだ彼のインタビューを端々で思い出した。
僕は彼がラインに登録した本名を検索したのだった。彼は同性愛者であることを会社にオープンにし、LGBTの社会活動団体に所属しているということが分かった。
結婚式も挙げていて、彼が恋人と手を繋ぐ画像がすぐに出てきた。幸せそうに笑う二人の笑顔。
ふと目を向けると彼が脱いだジャケット、ワイシャツ、スラックス、靴下、全ての衣類は丁寧にデスクの上に置かれていた。
それは彼が綺麗な世界で生きるている証拠みたいなものだと思った。


「私は同性愛者であることが悪だなんてちっとも思いません。自分が胸を張って同性愛者として生活することで、他の人もそれを励みにして欲しいと思っています」


それってあなたがそうしていたように、自分のチンコの画像をアプリに載せることができる社会ってことなのかな。
シャワーから出た彼を僕はすぐにベットへ押し倒した。
彼はまとっていたスーツと同じように、腰にバスタオルをきっちりと巻き付けていた。
首筋に舌を沿わせると、彼は声を漏らた。そのまま耳を舐める。彼の声はさらに大きくなって身体を捩じらせた。
乳首を口に含む、少し噛んで舐めるを繰り返す。僕は彼が巻いているバスタオルを乱暴にはぎ取った。唾液を手のひらに塗って、彼のそれを扱いた。
僕は彼を四つん這いにさせた。彼の固くなったものを、乳しぼりのように握った。根本からその先っぽをゆっくりと、何度も上下させた。彼は声を上げながら、枕に顔を埋めていた。
僕は彼の頭の上に跨った。彼は嬉しそうにそれを舐めてくれた。僕は腰を振りながら、彼のチンコを自分の口の奥へストロークさせて唾液で、べとべとになった手で彼のそれを扱いた。
向き直ってキスをすると、彼は写真で見たような作り物の笑顔ではなくて、快感で歪んだ、唾液でぐちゃぐちゃな笑顔を僕に見せてくれた。
ありがとうございます。ねえ、でも僕にはあなたが住んでる綺麗な世界は見せてくれないんだよね。


「次の世代のLGBTが少しでも生きやすいように私はカミングアウトを続けていきます」


その冗談、ウケるよね。最高に笑えるよ。
僕は何か約束が破られたような失望感を抱いた。
全ての人が平等だとか、差別はいけないとか、同性愛者も堂々と生きていこうとか、なんでみんなマトモなフリをしているのだろう。
なんで一人の人を愛するということが純愛なのだろう。それって何かと矛盾してるよ。
全部嘘なんだよ、この世界の綺麗ごと。
ざまぁみろ。